無題392_20210901162639

題名:結び契りて(むすびちぎりて)


作者:オニオン侍

人数:6人(4:2)


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【本作における著作権管理・利用について】


本作は著作権フリーであり、サークル活動、


無料放送、商業目的問わず自由にご利用下さい。


また、いかなる目的での利用においても報告は不要であり、


必要に応じて改稿・編集をして頂いても構いません。


(ご報告はいただけるとめちゃくちゃ喜びます!)


(ご報告はいただけるとめちゃくちゃ喜びます!)


(配信などございましたらぜひお教えください!)


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時間:45分弱


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【配役】


○男性


名前:逢原 契(あいはら けい)

年齢:20代

概要:独身

通称:ケイ


名前:伊尾崎 慎也(いおざき しんや)

年齢:20代

概要:愛妻家

通称:イオ


名前:魚見 遼太郎(うおみ りょうたろう)

年齢:20代

概要:恐妻家

通称:ウオミー


名前:男モブさん(おとこもぶさん)/ナレーション

年齢:幅広い/自由

概要:男性のモブ全て頑張る人/場面説明

通称:男モブ/N


○女性


名前:江西 結(えにし むすび)

年齢:20代

概要:老舗製薬会社の1人娘

通称:結(むすび)


名前:小野 芽衣子(おの めいこ)

年齢:20代

概要:結のお友達

通称:芽衣子(めいこ)、めーちゃん



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ケイ(♂):

イオ(♂):

ウオミー(♂):

男モブ/N(♂):

結(♀):

芽衣子(♀):


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本文





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N【とある田舎の居酒屋にて】


ケイ「イオはほんとにマメな奴だよな」


イオ「普通だって。ウオミーだって奥さんに連絡くらいするでしょ」


ウオミー「するする!するけどさ、させられてるっつーか」


男モブ店員「あいよー、生3っつとお通しねー」


結「あ、すいまーせん」


男モブ店員「はーい、ただいまお伺いしまーす」


ケイ「ま、とりあえず乾杯っと」


イオ「かんぱーい!」


ウオミー「うぇーい!今日は飲むぞー!」


ケイ「飲み過ぎんなよ。奥さんに怒られんの俺らなんだから」


イオ「そーそー。まあ、程々にね」


ウオミー「(美味しそうに喉を鳴らしながら一気に飲み干し)〜〜っぷはぁー!うめぇー!」


ケイ「腹立つほどいい飲みっぷりだな、おい」


イオ「あっはっは!まあ、これでこそウオミーだよね。あ、生追加お願いしまーす」


男モブ店員「かしこまりましたー。こちら、ご注文の揚げ出し豆腐と、枝豆です」


ウオミー「ふぅう!きたきたー!あざまーす!」


芽衣子「あ、すいませーん!」


男モブ店員「はーい、ただいまー」


結「えっと、蒸し鶏のサラダと、烏龍茶と、烏龍ハイお願いします」


男モブ店員「かしこまりました。ただいまお持ちしますね~」


ウオミー「イオはいいよなぁ!嫁さん優しいし、可愛いし!俺んとこなんて鬼よ、鬼!」


イオ「何言ってんだよ、ウオミーのお世話めちゃくちゃしてくれてさ、いいお嫁さんだろ」


ケイ「まあ……めちゃくちゃ怖いってのも、ほんとだけどな……」


ウオミー「だろぉ?!昔はさ、もうちょっとこう健気でさ、可憐でさ」


男モブ店員「お待たせしましたー、こちらお下げしますねー」


イオ「あ、これもお願いしまーす」


男モブ店員「あ、どーもー。こちらサラダとお飲み物お待たせしましたー」


結「わ、おいしそー!ありがとうございます〜」


芽衣子「食べよ食べよ!あ、サラダ取り分けるの任せて~!」


ウオミー「とにかく、俺の嫁さんの話なんて置いといて!今日は飲むぞー!」


ケイ「声でけえよ、バカ!座れ!」


芽衣子「んじゃ、カンパーイ!(半量程一気に煽って)っぷは〜……それでさ、例のお見合いってどうなったの?!」


結「へっ?!あ、あーえっと……すっぽかしちゃった」


芽衣子「はぁ?!なんでよ?!これでやっと」


結「わぁあ、す、座って!座って!わ、私は大丈夫だから、と、とにかく座って〜!」


ウオミー「お!お姉さんも飲んでるー?!」


結「ほ、ほら、絡まれちゃうよ……」


イオ「コラー!知らない女性に絡みに行かない!すいません、ほんと」


ケイ「このバカ!」


ウオミー「いでででで」


芽衣子「あ、ご、ごめんなさい。騒いじゃって。ちょっと、その、びっくりして」


ウオミー「なんすかなんすか、どうしました?」


ケイ「おいバカ!」


結「えっえっ、あ、いやその……なんでも、ないですよ?ね、ね、お見合いは実はちゃんと行ったし縁談もなんか良い感じにまとまったし」


芽衣子「なんですっぽかしたか、教えてくれる?」


結「えーーーっと……」


芽衣子「……聞いてくれます?!」


イオ「へ?!ちょ、ちょっとお姉さん?!」


芽衣子「この子ったら、名家のお坊ちゃんとのお見合いをすっぽかしたとか言うんですよ?!」


結「わわわわ、や、やめてやめてえ」


ウオミー「わーお、そっちのお姉さんやりますねえ!」


ケイ「イオ、こいつどうしたらいいと思う」


イオ「それはもう、これ一択でしょ。あ、もしもしー?ウオミーの奥さん?」


ウオミー「へ?!ちょ、待って待って待って」


イオ「ウオミーが〜……なんてね、フリだよフリ。ちょっとは落ち着いた?」


ケイ「その、なんか……すんませんね」


結「い、いえ、こちらこそお友達がその、急にごめんなさい」


芽衣子「だ、だって……結、お母さんにまた言われるじゃん。なんでダメだったの?おっさんだったとか?!」


結「こ、声が大きいよお」


ケイ「あー、あの、プライベートなお話ですし」


ウオミー「でも気になるじゃーん」


イオ「あ、コラ!」


芽衣子「ですよね?!気になりますよね?!というか、私、めちゃくちゃ心配で」


男モブ店員「お客様〜、よろしければお広いお席ご用意しましょうか?少々、盛り上がられていらっしゃるようですし」


ケイ「あ"っ……す、すいません、その静かにするんで」


ウオミー「あ!じゃあお願いします!」


イオ「ウオミー?!」


ウオミー「お姉さん達もいいですよね!これもなんかの縁ですし〜、俺、お姉さん達とお話したいなー!」


芽衣子「ぜひ!結もいいよね?!」


結「ええ……」


芽衣子「話してくれるまで今日帰らせないから」


結「ええええ……」



N【広めのテーブル席に集合する一同】


ケイ「あとでウオミーの奥さんにチクろうな」


イオ「そりゃあ、もちろん」


男モブ店員「お待たせしました〜、揚げ物の盛り合わせと、追加のお飲み物です」


ケイ「どーもー」


ウオミー「さーてさてさて、自己紹介も済んだところで……で?!で?!江西さんはなんでお見合いすっぽかしちゃったんすか?!」


結「うぅ……その、お恥ずかしい限りなのですが……所謂、その、政略結婚的なアレでして」


イオ「政略?!え、もしかして……江西結さん、って、え、あの江西製薬の……?」


結「あっ、いや、その……はい……」


芽衣子「結はそこの1人娘なんですよ。それでお母さんが、かなりうるさくって」


ケイ「それは、その大変ですね」


結「ちょっと、大変です、へへへ」


ウオミー「あれすか?!私には心に決めた人が〜!的な」


芽衣子「それは絶対ないです!そんな話、今まで1つもしてくれなくて」


男モブ店員「あ、いらっしゃいませー。お席ご案内しますね。2名様ごあんなーい」


結「えーっと、その……なんといいますか」


イオ「ほらほら2人とも、そんなに詰め寄らないの。江西さん困ってるでしょ」


ケイ「そうだぞ。お前だって奥さんに言えないことの1つや2つあんだろ」


ウオミー「う゛っ!そ、それとこれは今は違いますぅー」


芽衣子「ねぇ、結。どうしても、言えないことなの……?私、力になりたいよ」


結「めーちゃん……。その、えっと……あ、あのね。そ、そう!実は好きな人ができて」


ケイ「……好きな人、ですか」


結「は、はいっ!か、駆け落ちする根性なんてないですけれど、お、お見合いすっぽかすくらいはしてやれ~!って、へ、へへへ」


芽衣子「……そんな話、1回もしてくれなかったじゃない」


結「ご、ごめんね。話しちゃったら、うちの事にめーちゃんを巻き込んじゃうかなって」


男モブ客A「はーあ。んだよ、彼女いないの?30にもなって?とか好き放題いいやがってさー」


イオ「おうちが大きいと、色々大変ですね……」


ウオミー「恋愛も自由にできないなんて……俺、絶対無理!!」


結「あ、あはは……れ、恋愛って素敵ですよね!うんうん。あ、え、えっと魚見さんは、恋愛結婚なさったんですか」


ウオミー「ん?!あー、あー、うん、そうそう。そう、だったんだけどなぁ……おかしいなぁ、はは……」


結「あ、あれ?!ご、ごめんなさい。聞いちゃ、いけなかったですか」


ケイ「ああ、いや。大丈夫ですよ。ただこいつがアホすぎて、しっかり者の奥さんに怒られまくってるだけですから」


男モブ客B「いやほんとそれな。つーか結婚して尻に敷かれてるだけのハゲにネチネチ言われたくないっつーの。既婚者がそんなに偉いのかって話だよな」


芽衣子「結は、その好きな人?と付き合いたくないの」


結「えっ?!えーと、あ、ううん、そりゃあ付き合いたいよ!うん!だって、恋愛ってそういうもの、だから。皆、そうでしょ?」


ケイ「大人は恋愛して、結婚する……それが、世間一般的には、普通ですもんね」


結「えっ、あ、逢原さん?」


ケイ「あ、いや、すいません。そ、そういえばその、これですっぽかした原因はわかった事ですし、俺らはこの辺で」


芽衣子「待ってください」


男モブ客A「時代も違うしさ?つーか、こんだけ働いてんのに給料は雀の涙でさ?どうやって先の事なんか考えられるかっての」


イオ「お、小野さん?い、いったん座りません?」


ウオミー「かーっ!枝豆うめー!」


芽衣子「結。嘘、ついてるでしょ」


結「うっ……や、やだな、そんなこと」


芽衣子「じゃあ、ちゃんとこっち見て話してよ」


結「うう……」


ケイ「ま、まぁまぁ。小野さんも落ち着いて」


男モブ客B「他人大事にする前に自分を労わるっつーの。あああああ、でも可愛い嫁さんはいつか欲しいよなぁ……。家に帰ったらさ?おかえりなさい♡って」


イオ「江西さん、嘘ついてるって……そんな風には見えなかったけど、本当ですか?」


結「え?!あ、その……」


芽衣子「なんで?!この人たちがいるから?!」


ウオミー「それもそうだな!はっはっは!俺たち退散する?」


ケイ「お前……自由すぎんだろ」


結「そ、そうじゃない!そうじゃない、です。その、めーちゃんでも、他の誰でも……言えないから。ごめんなさい!!お会計、置いておきます!」


芽衣子「あ、ちょ、結!待って!!」


ケイ「俺、行きますよ」


イオ「ケイ?」


ケイ「あー、えっと。小野さん、ヒールでしょ。それじゃ追いかけるのは、しんどいから。ウオミー、会計よろしく!」


ウオミー「はぁ?!なんでだよ、あ、ちょ、おい!」


イオ「……ケイ、どうしたんだろ。こんな事するタイプじゃないよね」


ウオミー「知らん知らん!さーて、飲みなおすかー」


男モブ客A「可愛い嫁さんなぁ……あー、でも俺その前に猫ちゃん飼いたいんだよね。もふもふの。俺、その子のためなら、なんか毎日頑張れる気すんだよなあ」


芽衣子「……ましょう」


ウオミー「店員さーん、すいませーん」


男モブ客B「猫ちゃんなぁ、それもいいよな。いやでもやっぱ俺は彼女かなー、彼女ほしい……いやその前に、好きな人、暫くできてねぇわ……どうやんだっけ、恋愛って……」


芽衣子「追いかけましょう」


イオ「ま、まぁ、そうなるよね。いってらっしゃい、って言いたいけど……」


ウオミー「え、なに、追いかけんの?それじゃ一緒に行かんとな!こんな夜道を女の子1人歩かせるわけにはいかねぇもん」


イオ「いやそうだけど、ウオミーに先に言われるの腹が立つな……」


芽衣子「店員さん!お会計お願いします!」


男モブ店員「はーい、ただいまー」





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N【公園のベンチにて】


ケイ「はぁ……江西、さん……走るの、はやいんですね……」


結「ご、ごめんなさい!まさか逢原さんが、その、追いかけてくるとは思わなくてびっくりしちゃって……」


ケイ「全速力で逃げたと……」


結「ご、ごめんなさいいいい」


ケイ「い、いや、俺が勝手に追いかけた、だけですから……はぁ、やっと落ち着いた」


結「あの、その……どうして、来たんですか」


ケイ「あー、その……気になって、しまって」


結「へ?!」


ケイ「あ゛っ、いや、その、女性としてではなく、あ、いやかといって魅力がないとかそういうあれでもなくてその」


結「あ、あ、えっと、勘違いしちゃって、ごめんなさい。その、えっと、気遣ってくださって、って事ですよね」


ケイ「気遣い……まぁ、そんな感じのような、うーん」


結「少し……違うんですか?」


ケイ「その、自分と、重ねてしまって。あ、いや、お話を聞いて勝手にその、憶測で……自分と似たとこがあるのかなーなんて」


結「……逢原さんも、お見合いをすっぽかした事が……?!」


ケイ「あーーいや、そこじゃなくてその……踏み入った事、聞いてしまうんですけれど……」


結「は、はい……」


ケイ「ええと……自分は普通の事ができないダメな人間だ、とか……思ってませんか」


N【一方その頃。居酒屋をあとにする3人】


ウオミー「ごっそーさんしたー」


イオ「ごちそうさまでした。さ、騒いじゃってすいませんでした……」


男モブ店員「あーいえいえー、またのご来店をお待ちしておりまーす」


ウオミー「さーて、どこに行くかね!」


芽衣子「結、絶対向こうの公園にいると思うんです。ちっちゃい頃から、困った時はよくそこに逃げてたから」


イオ「公園ですか。手がかりもないですし、向かってみましょう」


ウオミー「へっへっへ、なんか青春って感じでワクワクすんな」


イオ「こら、茶化さない。って、あ!小野さん、待って待って!」


芽衣子「結……なんで、私に教えてくれないの……?1番の友達だと思ってるのに……!」


ウオミー「うっひょー!ヒールで爆走する美人ってなんかいいなぁ!」


イオ「……これもあとでチクらなきゃな」



N【再び公園にて。ケイの問いに暫し沈黙する結】


結「な、んでそう思って。あ、その、差し支えなければ……お伺いしても、いいですか」


ケイ「……俺が、そうなんです。皆がこぞって恋人作って、家庭を築いてるのに……俺は……イオとか、ウオミーみたいな友達を大切に思うことはできても、特定の誰か1人を好きになって、愛するっていうのができないし、想像もできなくて」


結「当たり前の恋愛が、できない」


ケイ「!……ええ、そんな感じです。恋愛できない自分が嫌で、情けないなって」


結「自分が、嫌……」


ケイ「それで、もしかしたら同じような方なんじゃないかって。自分のために、追いかけてしまいました」


結「自分のため、ですか?」


ケイ「ええ……。こんな田舎ですし、結婚してない成人男性は肩身が狭いですし……さらには恋愛がわかりませーん、人を好きなれませーん、なんて大声で言えるわけもなくて。本当は似たような考えの人、何人かはいるのかもしれませんが、互いに見つけることができないんです」


結「田舎特有の、その……そういう空気、ありますよね」


ケイ「まあ、田舎も悪い事ばかりじゃないんですけどね。ただ、どんな風に生きていても最終的に『結婚できなかった男』って見られて終わるのかーなんて……思うこともあって……って、少し話がそれました。ええと、その、もしかしたら共感していただけるんじゃないかって、思ってしまったんです」


結「そう、だったんですね。あ、えっと、お話してくださって……ありがとうございます。あの、私」


ケイ「ま、待ってください。江西さんもそうですよね、さあ打ち明けてください!って事じゃないんです。俺と同じように考えていて、少しでも共感しあって心が軽くなる部分があるなら……お話、聞かせてください」


結「……ふふ、お優しいんですね。ありがとう、ございます。初対面の私なんかに、大切な事を教えてくださって」


ケイ「ありがとうだなんて、そんな。すいません、少し焦ってベラベラ喋りすぎてしまって。俺の方こそ、聞いてくださってありがとうございます」


結「いえっ、そんな……あ、あの、私の事も聞いてくださいますか?」


ケイ「そ、れは……ええ、ぜひ。聞かせてください」


N【結はゆっくりと思い出すように、自身の生い立ちを語った。老舗の製薬メーカーの1人娘として生まれ、3歳にもならない頃に名家の長男と許嫁の関係を結ばされたという事。政略的といえど、彼とは幼馴染として良好な関係を築き上げ、今では互いに信頼しあっているという事。嬉しそうに言葉を紡いでいた彼女だったが、一転し表情が曇っていく】


結「本当に素敵な人なんです。優しくて、お勉強もできて、面白くって。……でも、やっぱり私は……彼は、大切な幼馴染で、友人なんです。家のためとはわかっていても、どうしても、その先が見えなくて」


ケイ「結婚して、その先ですか」


結「はい……その、ちょっとセクハラになってしまうかもで申し訳ないのですが……最終的に後継ぎのための、政略結婚です。その、子供を授かる事も、授かった後も、その子供も夫になった彼の事も、1つも想像がつかないんです。ひどい話かもしれませんが……どちらも、必要と感じていない、そんな自分しか、そこにはいなくて」


ケイ「ひどくなんて、ないですよ。だって、あなたの人生じゃないですか。そう考えているあなたが、この先にいる。それだけですよ」


結「逢原さん……」


ケイ「あ、いや、その……自分が言って欲しい言葉を使ってしまっただけなんで、恥ずかしい限りですが……」


結「いえ、ありがとうございます……」


N【口の端に笑みを浮かべるが、その瞳はうっすらと滲んでいた。その双眸で遠くを見据え、ゆっくりと語りだす】


結「昔から、ずっと母に言われてきたんです。私は幼稚で鈍臭いから、恋の1つもわからないんだって。当たり前の事もできないダメな子だから、親が決めた縁談に従えば……私でもちゃんと大人になれるんだって。……私は、自分の事しか考えられない自己中と、教えられてきました」


ケイ「そ、れは……いくら母親でも、それは、言っちゃいけない事ですよ……!」


結「……ありがとうございます。私の代わりに、怒ってくださって。ふふ、嬉しいです」


ケイ「いえ……そんな」


結「でも、私、その言葉の通りだと思ってしまったんです。だから、今日まで……形だけのお見合いの日まで、ボーッと生きてたんです。ダメダメな私でも、親の言う通りにすれば大丈夫って」


ケイ「でも、すっぽかしたっていうのは……」


結「急に、めーちゃんの言葉を思い出しちゃって。何度も、何度も言ってくれていた、大事な言葉なんです。それなのに……それまでは『めーちゃんはすごいな素敵だな、でも私には無理だよ』って……ちゃんと、聞いてなかったんです」


N【結が静かに目を閉じ、芽衣子との時間を思い出す。それを語る口調は穏やかで、愛し気で、しかしどこか寂しさを感じさせるものだった】


*回想


芽衣子「結、またお母さんの事気にしてんの?!」


結「うっ……だ、だってお母さん、こんなキラキラした格好はダメって、きっと言うもん……」


芽衣子「はぁー?!こんなに似合ってて、こんなに可愛いのに?!意味わかんない!」


結「に、似合ってる?私なんか、こんなに素敵なの似合わないよ……」


芽衣子「めちゃくちゃ似合ってるんだから!ほら、シャンとして、鏡ちゃんと見て!」


結「わわわっ……」


芽衣子「ほら、ね!超可愛いよ、結。なんでいつもお母さんの言う事気にしてんのか知らないけどさ、たまには自分の言いたい事も気にしてあげなよ」


結「私の、言いたい事……」


芽衣子「そーそー。門限18時なんて早すぎる!とか、もっとキラキラしたお洋服を着たい!とかさ」


結「そ、そんな事思ってなんか……」


芽衣子「そ?私はもっと結と遊びたいし、おそろの服着たいけどね。だって女子高生だよ?!今しか着れないカワイイのとかいっぱいあるよ?!」


結「そ、れは……うん、私も……もっと、めーちゃんと遊びたいな……」


芽衣子「ふふー、でしょ?まぁ……あんたのそのやさしー性格で、いきなりお母さんに噛みつけ!なんてのは難しいと思うけどさ。せめて、私なんかっていうのやめようよ。結と仲良しな私の立場考えた事ある〜?」


結「わっわっ、そ、それは……ご、ごめんね、めーちゃん。私と違って……めーちゃんはすごくキラキラしてて、素敵で、かっこいい彼氏さんもいて、なんでもハキハキ伝えられてて……私の自慢のお友達、なの」


芽衣子「ちょ、っと急になに?!ベタ褒めやめてよ、照れるじゃん!」


結「え、へへ……」


芽衣子「ま、まぁ悪い気はしないけど。じゃあ、その、素敵な友達がいるあんたは、お母さんが言うほど何もできない子じゃないし、充分魅力的って事に、なんじゃないの?」


結「……そ、うかな」


芽衣子「そうなの!!だから、お母さんの言いなりになんか、なっちゃダメなんだから。『結は、結の思う様にしていいんだよ』」


*回想終了


N【パチリと目を開け、懐かしむように微笑を浮かべる結。それと同時に、公園へ駆け込む1人の女性の姿があった】


芽衣子「はぁ……はぁ……いっ……てて……結、どこ……?」


イオ「はぁ……ひ、ヒールでそんなに走っちゃダメですよ……これ、使ってください……ケホケホ」


芽衣子「絆創膏……ご親切に、どうも」


ウオミー「ひゃひゃひゃ、ヒール爆走美女!最高だー!ぉぅえ、飲んだ直後のダッシュ、きっつ!!」


イオ「……奥さん」


ウオミー「あーー、ケイのやつあんなところにーーー」


イオ「全くもう……。小野さん、動けそうですか?」


芽衣子「はい、ありがとうございます」


イオ「って、もう行っちゃった」


N【ベンチに腰掛ける2人の姿を見つけた魚見は、少し離れた場所で身をかがめた】


ウオミー「なになになに、良い雰囲気な訳ー?あ、イオ遅ぇよ!ほらここ」


イオ「何こそこそしてんだよ」


ウオミー「そういうお前も小声になってんじゃーん。ちょっと盗み聞きしようぜ」


N【芽衣子は、結と逢原の後ろ姿を暫し眺める。そして、唇を尖らせながら彼女もまた身をかがめた】


芽衣子「……彼に、何を話すというんですかね」


イオ「小野、さん?お、怒ってらっしゃる……?」


芽衣子「怒って、ないです」


イオ「そ、そうですか」


ウオミー「イオうっせえ!聞こえねーだろー」


イオ「……今日の事全部チクろ……」


N【背後の3人に気が付く事もなく、結はゆっくりと空を仰いだ】


結「私は、私の思う様にしていいんだって……今日、やっと……思えたんです。めーちゃんが、何度も教えてくれたのに……遅すぎ!って怒られちゃいます、ふふ」


ケイ「素敵な、ご友人ですよね」


結「はい、自慢のお友達です。それで私、結婚って人生で大きな出来事すらも、自分で決めないの?って……気がついたら、すっぽかして……それで、なんだか嬉しくなっちゃって、めーちゃんに会いたくなって……」


ケイ「今夜は飲み明かしたい!ですか」


結「あははっ、その通りです」


ケイ「素敵、ですね」


結「はいっ、めーちゃんはほんっとうに素敵なんですよ」


ケイ「あぁ……小野さん、も、素敵な方ですが……思い切って、大きな決断をしたあなたが、とても素敵だなと思いました。……自分と似てるだなんて、失礼な事言ってすいません」


結「へ?!い、いや、そんな……私、逢原さんに感謝してるんです」


ケイ「感謝、ですか?」


結「はい……ずっと、もやもやってしてたんです。なんで私は、素敵な人が相手でも結婚を良しとできないのかなって……。理由はわからないけれど、でも、このままお母さんの思うままに結婚したらいけないって、それだけは思って……」


ケイ「なるほど……」


結「それで、逢原さんのお話を聞いて、腑に落ちたんです。あ、私、誰の事も好きになれないんだって。自分の事、ダメって思ってしまうのも……その当たり前ができないからなんだって」


ケイ「そう、でしたか……」


結「も、もちろんめーちゃんは大好きですよ!大事なお友達です。でも、いわゆる恋愛の好きは、私、わからないなって……」


ケイ「そうであると、自覚を……された、と」


結「はい。いい歳になってようやく、自分の事を知ってあげられました。だから、ありがとうございます。逢原さん」


ケイ「いや、その……はは、まさかお礼を言われるだなんて思っていなくて。こちらこそ、ありがとうございます。俺の方こそ……あなたに出会えて、よかった」


結「そ、そんな……て、照れちゃいますね。へへへ」


N【2人はむず痒い照れ笑いを互いに浮かべ、同時に口を紡ぐ。暫しの静寂が訪れるが、逢原がそれを気まずそうに断ち切った】


ケイ「あの……このお話は、小野さんには……されないんですか」


結「あ……ま、まだ、その……。私、情けないなぁって。めーちゃんは優しい人だから、私を傷つける事なんて絶対に言わないってわかっているんですが、その……あまりに、自分が、ダメだと思ってしまって。劣等感、というんですかね。へへへ……」


芽衣子「なによそれ!意味わかんない!」


結「ひゃっ?!め、めーちゃん?!」


N【身をかがめていた芽衣子だったが、突如として立ち上がり、結に詰め寄っていく】


ウオミー「修羅場?修羅場?」


イオ「こら」


ケイ「……おい。何やってんだ、お前ら」


ウオミー「えー?野次馬!!」


ケイ「はぁ……」


芽衣子「結、なんでそんな事言うの」


結「ご、ごめんね……」


芽衣子「劣等感とか、そんなん関係ないじゃん!私と結は仲良し、それだけじゃダメなの?」


結「ごめんね……まだ、わからない」


ケイ「江西さん……」


ウオミー「お友達なら別にどっちが偉いとか、すごいとかないんじゃないー?」


イオ「ちょ、急に口出すなって」


ウオミー「だーーーってウジウジしてて」


芽衣子「そうよ、私は別に結より上だとか優れてるとか……そんなの考えた事、一度もないんだから!」


結「うん……知ってるよ。いつも、ありがとう。でも、すぐには……変われないよ……」


N【俯く結を、芽衣子は震えながら真っ直ぐ見据える】


芽衣子「……ねえ。いつかは、わかってくれる?結は素敵な、私の自慢の友達なんだって。情けない事なんて、1つもない立派な女性だって」


結「……そう、思えるようになりたいな。めーちゃん、待っててくれる……?」


芽衣子「……結……」


結「少しずつ、自分の思う様に生きていくから。頑張る、から……これからも、傍にいてほしいな……」


芽衣子「……う、うう」


ウオミー「お姉さん、ほんとはもういう事決まってんでしょっぅぐ」


イオ「こらっ!!」


N【魚見が伊尾崎に押さえ込まれるその横で、芽衣子は大きなため息を1つつく】


芽衣子「……はぁぁああ……もう!気長に待てばいいんでしょ!そんなの、慣れっこなんだから!」


結「めーちゃん……へへへ、ごめんね。いつも、ありがとう」


N【芽衣子は結を強く抱擁し、肩口に顔を埋める】


芽衣子「……私の方こそ、ごめん。1番近くに居たのに、結の事何にもわかってなかった、かも」


ウオミー「美人とかわい子ちゃんのハグ!いいねぇ!」


イオ「あ、もしもし?」


ウオミー「あ"ーーー!!」


芽衣子「恋愛も、結婚も普通なんだって思ってた。や、今もその、そうだって……思ってる。でも、結の事、もっとわかりたいから。その……」


N【キッと逢原を睨みつけるように視線を送る。その目には嫉妬と、照れが入り混じる】


芽衣子「そこの冴えない男なんかに話さないで、私にちゃんと教えてよ!!」


ケイ「あ、ははは……」


ウオミー「ぎゃっはっはっはっ!!冴えない男だって、ぎゃはははは!」


結「め、めーちゃん!!」


芽衣子「……でも、感謝は、して、ます。私じゃたぶん、一生気がつかなかったし。酷い事、言っちゃうかもだったんで。結婚は当然、とかなんか……。その、ありがとうございました」


ケイ「え、あ……いや。結さんが、羨ましいです。貴女のような理解者が傍に居てくれて」


ウオミー「はーー?俺らは?俺らは?」


イオ「そーだそーだ!」


ケイ「……まあ、それは追々」


ウオミー「おーーん?照れてんの?照れてんの?」


イオ「なんだなんだー?めずらしい顔してるねえ、逢原くーーん」


N【逢原にまとわりつき軽口を叩く2人。それらをクスクスと楽し気に見守る結】


結「逢原さんも、素敵な方達に囲まれて、いいですね。ふふ」


ケイ「……ですね」


芽衣子「ほら、結、もう帰ろ?あ、というかうちで飲み直そ?ね!」


結「わっわっ、め、めーちゃんてば、待って待って」


N【芽衣子は結の手をしっかり握り、颯爽と歩き出す。慌てて結は振り返り、逢原に微笑みかける】


結「あ、逢原さん!えっと……誰の事も、愛せなくっても……『ひどくなんて、ないですよ!だって、あなたの人生じゃないですか!そう考えているあなたが、この先にいる。それだけですよ!』……えへへ、そ、それじゃ、またどこかで!おやすみなさい」


逢原「あ……は、い。また……おやすみなさい」


N【芽衣子に引き摺られるようにし、結は公園をあとにした。静けさが、辺りを覆う】


イオ「いやー、こんな事になるなんてねー。びっくりびっく……り……え、ちょ、ケイ?!」


ウオミー「んあ?え、泣いてんの?どしたどした」


N【立ち尽くす逢原の両頬には、止めどなく涙が伝っていた】


逢原「……は、はは。ひどくなんて、ない……か……」


イオ「ケイ……」


ウオミー「え、ちょ、あーその……んー……あー、あのさ。難しい事わかんねーけど、結婚?とかしなくてもケイはケイっつーか、ずっと友達的な」


N【魚見が恥ずかし気にモゴモゴと話していた、その時だった。魚見の懐から、恐怖の怪物と戦闘するような音楽が鳴り響く】


♪デーンデーンデーンデーデデーデーデーデデーーン(爆音)


イオ「えっちょ、うるさ!ウオミー!」


ウオミー「あ、やべ、嫁さんからだ!!」


N【すぐさま電話を取る。同時に、激しい怒号が魚見の耳を貫いた】


ウオミー「あーー!ごめん!ごめんんて!えっとなんていうか、青春と修羅場と友情で大忙し!みたいなってあーーごめんなさいごめんなさい、今すぐ帰ります!はい!ごめんなさい!っつーわけで俺帰るわ!まったねー!」


イオ「は?ちょ、き、気をつけて帰れよー!」


ケイ「……ははっ、またな。ありがとな、ウオミー」


ウオミー「おう!」


イオ「……ほんと好き勝手やってくれるよね、ウオミーは」


ケイ「だな」


イオ「……俺たちも、帰ろうか」


ケイ「そうだな」


イオ「……あー、その、あのさ」


ケイ「ふっ」


イオ「おい!今なんで鼻で笑った?!」


ケイ「良い事、言おうとしてんだろ」


イオ「は?!ちょ、も、もーー!もう知らん」


ケイ「あっはっは、悪い。その気持ちで十分だ、ありがとうな」


イオ「……キザなやつー」


ケイ「いいだろ、別に」


イオ「ウオミーよりマシ」


ケイ「はっは、間違いないな」


イオ「……んじゃ、帰ろっか」


ケイ「おう」



〜完〜