もう1人いる

題名:もう1人、居る


#5


作者:オニオン侍


---------------------------------------


※本作における著作権管理・利用について

本作は著作権フリーであり、サークル活動、無料放送、商業目的問わず自由にご利用下さい。

また、いかなる目的での利用においても報告は不要であり、必要に応じて改稿・編集をして頂いても構いません。


---------------------------------------


時間:10分弱


---------------------------------------


▼配役(性別転換ok!)


○女性


名前:私


年齢:20〜


概要:最近、記憶が飛びがち



名前:ワタシ


年齢:最近、生まれました


概要:つまるところワタシは私


※私とワタシは同一人物。

1人2役でも、2人で演じても構いません。

Mは胸中での発言と捉えてください。


---------------------------------------


本文



私M(最近、一部の記憶が欠けている。知らないうちに高いお酒を買っていたり、我慢していたはずの期間限定のお菓子がなくなっていたり…。疲れているからかな、なんて思っていた。けれど、今朝は違った…)


私「嘘…嘘、嘘うそうそうそうそ…」


私M(信じられなかった。私が…いや、そんなまさか。こんな事、するわけがなかった)


私「わ、わた…私…私が、これを…?」


私M(目の前に広がる赤の残骸。満たされた腹。調理した形跡。じわりじわりと、現実という二文字が私の脳内を侵食していった)


私「い、いや……私、絶対に、こんな…私は食べてない違う違う違うちがうちがう…!」


私M(口ではそう言いつつも、私はもう…口の残った「それ」の味を受け入れ…もう一度と、願ってしまった…)


私「私じゃない私じゃない、私…じゃ…」


私M(心を守るため…私は壊れる前に現実から逃げ出した。意識が途切れる)



ワタシ「んーっ…よく寝たぁ。うわ、もう昼かぁ」


ワタシM(ワタシは最近生まれた。なぜ、どうやって生まれたのかはどうだっていい。ただ、ワタシを突き動かすのは『食べたい』という衝動だけ)


ワタシ「確かここに〜…あったあった。ちょっと高めのカップラーメン!」


ワタシM(私は自分に素直じゃないから、すぐに我慢しちゃうから。代わりにワタシがやってあげるんだ。「やりたいこと」をぜーんぶ)


ワタシ「お湯を注いで3分っと…」


ワタシM(些細なことでも、悪いことでも、なんでも)


ワタシ「いっただっきまーす!」


ワタシM(そうじゃないと、心の均衡が保てないから。私はワタシ。あなたのために、今日もワタシは)


ワタシ「ご飯もどーん!」


ワタシM(私がやりたいこと、ぜーんぶ、やってあげる)


ワタシ「はー、美味しかった。ごちそーさま!…でも、やっぱり…朝ごはんのアレには勝てないなー」


ワタシM(ワタシは今朝の、美しい赤いあの光景を思い出して、ふと意識を手放した)



私「…また…記憶が…今何時…?うわ、もうこんな時間…夕飯何にしようかな」


私M(最近、お腹が空いて仕方がない。そして、なぜか今朝の光景が脳裏を過ぎる)


私「…いやいやいや、私は違う、私は」


私M(頭をブンブンと振る事しかできなかった。もう、理解してしまっていたから)


私「な…に、これ。メモ…私の字…?」


私M(冷蔵庫にメモが貼ってあった。間違いなく私の字で。「欲望に、忠実にいこ?」と。咄嗟に赤い光景が目に浮かぶ)


私「ひっ…ち、ちがう…違うの!私は」



ワタシ「あらー、握り潰して」


ワタシM(ワタシからのメッセージは、届かなかった。いくらワタシが頑張っても、私が変わらないと終わらないのに)


ワタシ「こんなに美味しいのに。どうしたら素直になってくれるかなあ」


ワタシM(私とワタシは、分かり合えるはずなのに。あの過去が…あの視線が邪魔しているのだろうけれど)


ワタシ「あ、そうだ。こうしちゃお」


ワタシM(ワタシは自信作のそれを頬張った瞬間、意識を手放す事にした。さあ、私。いーっぱい味わって?我儘の味を、思う存分…)




私「ん…ん、んっ?んんん…」


私M(抗えなかった。驚きよりも、口内に広がるその甘美な味、鼻腔をくすぐる香りが私の脳内を支配してしまった)


私「あ…あ…こ、これ…私、今食べ…」


私M(食卓に広げられた、調理した覚えのないそれらは、強烈な誘惑を発していた。そして、香りは口の中の「それ」と一致した…)


私「ああ…もうだめ…」


私M(もう、止められなかった)


私「美味しい…美味しいよお…目玉焼きにケチャップ…」


私M(かけていいのはソースだけだったのに。幼い頃、ケチャップをかけて食べていたら友達に変なの!って笑われたあの日から、そう誓っていたのに…)


私「とまんない、とまんないよ…もっと、もっとケチャップかけなきゃ…」


私M(もう、私は、ソースだけには戻れなくなっていた)



ワタシ「ふふふー、よかったよかった!ようやくちょっと素直になってくれたね」


ワタシM(近い未来…ワタシの役目も、もしかしたら終わるのかもしれない。嬉しいはずなのに、少し寂しかった)


ワタシ「この調子でどんどんいこー!今度は何を我慢してんのかな〜」


ワタシM(今はもう少しだけ、私と一緒に)



私M(あの日から、なるべく我慢をしなくなった。今朝も目玉焼きにはケチャップをかけた)


私「美味しいー…ああ、でもな…いや、ケチャップだけ、ケチャップだけ解禁だから、うん…」


私M(心にモヤがかかる。すぐに私は私に嘘をついてしまうのだ。我慢を、してしまう)



私「わっ、また一瞬飛んでた…え、嘘…ま、待って待って、ダメだよ…」


私M(また、あの感覚。じわりじわりと現実が脳内を侵食していく。逃さないとばかりに、机の上には1枚のメモがおいてあった。…また私の字でこう書かれていた)


私「…「塩で食べていいんですのよ」…」


私M(読み上げたその唇は、うっすらと塩気を帯びていた。目玉焼きと塩のマリアージュが、口内に響き渡る)


私「い、いやぁ……私の中に…もう1人、いる…!」



〜完〜



▼あとがき

あなたは何派??