さよならペンシル
題名:さよならペンシル。

作者:出崎真純/オニオン侍

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本作は著作権フリーであり、

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また、いかなる目的での利用においても報告は不要であり、

必要に応じて改稿・編集をして頂いても構いません。

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時間:10分弱

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※配役(男女比:2:2)

※配役2(男女比:1:1 ※男女それぞれ兼役)

△男性

名前:後輩              

年齢:20歳             

概要:美大生。     

名前:これ    

年齢:-

概要:-

△女性

名前:先輩             

年齢:22歳         

概要:美大生。  

名前:それ    

年齢:-        

概要:-












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※本文

これ「お別れかな?」

それ「お別れだね」

これ「僕はもう終わっているから?」

それ「僕ももう終わっているから」

これ「これで最後?」

それ「これで最後」

これ「最後ってなに?」

それ「最後ってなんだろう」


先輩「よいしょっと…うわ、あああ」

後輩「あれ、先輩? 珍しいですね、卒業制作も終わったのに」

先輩「あー…あ、お疲れ。講義終わったの?」

後輩「はい、今日は午前しか取っていないので。……あの、足元が文房具だらけなんですが、これは一体」

先輩「ダンボールがひっくり返っちゃって」

後輩「なるほど」

先輩「そうそう。――ああ、ごめんね」

後輩「いえ。全部混ぜて入れてもいいんですか?」

先輩「大丈夫だよ」

後輩「削れた鉛筆、毛先のつぶれた筆、インク切れのペン……ガラクタ市の準備ですか?」

先輩「ううん、お葬式なの」

後輩「ああ、そういう」

先輩「うん――よし。ありがとう、助かったよ。さて、よ、い、しょ……あれ? よ、よい、よいしょ……」

後輩「大丈夫ですか?」

先輩「はっはっは……私、筆より重い物持ったことないから。なんて……」

後輩「持ちますよ」

先輩「ごめんね? いや、ほんと」

後輩「何処に運びますか?」

先輩「とりあえず、外までお願いしていい?」

後輩「はい。――あの、先輩?」

先輩「なに?」

後輩「葬式って、こんなに文房具が必要なのですか?」

先輩「あはは、違う違う。この子達のお葬式なんだ」

後輩「文房具の……?」

先輩「ほら、私、もう直ぐ卒業でしょう?」

後輩「……ええ」

先輩「昨日ね、部屋の整理をしていたんだ。来月から一人暮らしだからさ。そうしたら、出てくる出てくる文房具達。もう百鬼夜行でも出来るんじゃないかってくらい」

後輩「化ける前に焼いてしまえって事ですか? 百どころか五百はありそうですよ」

先輩「あはは、今日集めた物も混ざっているからね。流石美大だよ」

後輩「それで来ていたのですか」

先輩「――放っておいたら、捨てられちゃうだけだからさ。引越し先はワンルームだから、持っていけないし……だから、ちゃんとお別れしたかったんだ」

後輩「……そうですか」

先輩「ちょっと、なんて顔してるの。これでも使える物は後輩達に譲ったんだよ?」

後輩「そういうことじゃなくて」

先輩「ん?」

後輩「――もう外ですよ。先輩の車に積めばいいですか?」

先輩「……歩いてきちゃった」

後輩「ダンボールを持って?」

先輩「肩に担いで」

後輩「江戸か」

先輩「飛脚じゃないもの」


これ「何処に行くの?」

それ「何処かに行くの」

これ「誰がいくの?」

それ「誰もがいくの」

これ「君はいくの?」

それ「君といくの」


先輩「――傍から見てるとさ、確かに目立ってたね。飛脚スタイル」

後輩「傍から見ないで下さい。先輩もグルですよ」

先輩「あはは、ごめんごめん。疲れた?」

後輩「大丈夫ですよ、このくらい」

先輩「ダンボール、花壇の横に置いてくれる?」

後輩「はい――ふう……あ」

先輩「気づいた? その辺りのマーガレット、君がくれた種から育ったんだよ。今年は暖かいから、もう植え替えたんだ」

後輩「ちゃんと、育ててくれたのですね」

先輩「もちろん。ふふ、驚いたよ。サークルの送別会で花は沢山貰ったけどさ、種でくれたのは君だけだった」

後輩「種だと、毎年楽しめますから」

先輩「おお、ポエマー……」

後輩「そういう事じゃなくて……」

先輩「冗談冗談。そういう素敵なところ、結構良いと思うよ」

後輩「え、本当ですか」

先輩「もちろん。こりゃ、新入生が放っておかないね、うん」

後輩「……それで、そろそろ焼きますか?」

先輩「うーん。あのさ」

後輩「はい」

先輩「ペンって、プラスチックでしょう。焼いたら、有害物質が出ると思う」

後輩「あ」

先輩「どうしよう」

後輩「……とりあえず、鉛筆と筆だけ?」


これ「これは辛いこと?」

それ「優しいこと」

これ「これは痛いこと?」

それ「穏やかなこと」

これ「これは寂しいこと?」

それ「寂しいこと」


先輩「焚き火を囲む、土に突き刺さったペンや消しゴム達。味があるね、創作意欲をそそられる」

後輩「いや、儀式かなにかですよ」

先輩「お葬式だって、儀式だもん」

後輩「仏教ってよりかは、魔術に見えますけどね」

先輩「否定出来ないことを言わないで」

後輩「――そろそろ、焼きましょうか?」

先輩「そうだね。じゃあ、一本目、投入!」

後輩「シュールですね……。煙もそこまで出ていないし、もう次を入れても――先輩?」

先輩「……これで終わりかぁ」

後輩「先輩……」

先輩「小中高に、もう大学まで終わってさ。私、来月から社会人なんだって。社会人だよ、社会人」

後輩「不安ですか?」

先輩「まあね。友達とも、今までよりは会えなくなるだろうし、会社は知らない人しか居ないし、それに、絵だって――2本目、投入っ」

後輩「……先輩なら、きっと上手くいきますよ」

先輩「そうかな」

後輩「はい、必ずです。僕が保障します」

先輩「あはは。君がそう言うなら、安心だね」

後輩「本心ですよ。先輩は、頭が良いですし、絵が上手いし、優しいし、それに……それに、とても魅力的です。だから、大丈夫です」

先輩「ありがとう」

後輩「あ、いや、その……三本目、投入です」

先輩「――ずっと好きだったんだ」

後輩「え?」

先輩「三歳の頃から、ずっと描いてた」

後輩「……好きですよ、先輩の絵」

先輩「私も好きだったよ。いや、自信満々って訳じゃなくてね? 何時間も、何日も、時には何ヶ月もかけて描くから。筆を赤に湿らせて、キャンパスを緑で照らして、黄色を垂らして。そうやって出来た絵を、嫌いになれる訳ないんだ」

後輩「そうですね」

先輩「でもね、もう終わりみたい」

後輩「絵、続けないんですか?」

先輩「あはは、無理だよ。頑張っても、好きでも、それだけじゃないみたい。社会って。卒業制作が箸にも棒にも引っ掛からなかったら、すっぱり止めようって決めていたの」

後輩「僕は、惜しいと思います」

先輩「ありがとう。君が一番、私を認めてくれていたよね」

後輩「今だって、誰よりも貴方を認めています!」

先輩「ありがとう」

後輩「先輩、だから続けてーー!」

先輩「――あ、懐かしいな。ほら、見て」

後輩「鉛筆、ですか? 二本とも随分短いですね」

先輩「はじめて買って貰った鉛筆なんだ。嬉しかったなぁ、楽しかったなぁ……あは、は、悔しい、なぁ」

後輩「……先輩」

先輩「なに?」

後輩「それ、僕に下さい」

先輩「だって、もう短いよ?」

後輩「お願いします」

先輩「君……」

後輩「先輩の鉛筆で、僕、描きますから」

先輩「あはは、眩しいなぁ」

後輩「ずっと、描きますから!」

先輩「――分かったよ、ほら」

後輩「一本、ですか……?」

先輩「それだけなら、あげてもいいよ」

後輩「じゃあ……」

先輩「これは、私が持っていたい。まだ、それでも、握ってみる」


これ「また会えるの?」

それ「また会えるね」

これ「嬉しいね?」

それ「嬉しいね」

これ「じゃあ、それまで」

それ「うん、それまで」

これ「さよならペンシル」

それ「さよならペンシル」



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