2020年12月
【声劇台本】聲と贄と【4人用】
題名:聲と贄と
作者:オニオン侍
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時間:10分弱
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※配役
○男性
名前:男
年齢:20代
概要:新しい「食材」を見つけた
名前:B
年齢:自由
概要:痛がりがち。演じ分けが忙しい。
○女性
名前:N(ナレーション)
年齢:自由
概要:雰囲気作りはあなたのお仕事
名前:A
年齢:自由
概要:痛がりがち。演じ分け有り。
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本文
*
N:ある日突然「全ての食材の聲」が聞こえるようになった。牛、豚、鶏…全ての動物、野菜、果物、穀物…全ての植物、その全ての聲がはっきりと。調理されてなお、その聲は聞こえ続ける。
A:いっぱいごはんくれてありがとう。
B:おひさまあびてきもちいねえ。
A:おかあさんおとうさんはどこにいったの。
B:いやだいやだいたいいたいいたいやめてやめてやめて。
A:あついあついあついあついよ。
B:どうしてすてちゃうのやだよ。
N:唯一、聲の聞こえぬ食材があった。
男:なんだ…こうすりゃよかったんだ。はは…大発見じゃね?
N:暗い台所の隅。部屋に滲む咀嚼音。
男:さすがに殺す前はうるせえけど…他のと違って料理しちまえば静かになるんだな。あー…静かに飯食えるの久しぶりだ…懐かしいな。
N:食材は皆全て、胃液に触れるまでその聲を上げ続ける。遡ること数時間前。街中のレストランにて。
A:ね、ねえ…どうしたの?顔、怖いんだけど…
男:俺さ、あんまり趣味とかなくてさ。
A:え…?あ、うん…。
男:美味い飯食うのが、まあ唯一の楽しみだったわけ。
A:わっ私も、美味しいご飯は好きよ。
男:それなのによ、最近の世の中どうなっちまったんだろうな?飯が、うるせえんだ。
A:う、うるさい…?
男:俺が何食おうか勝手だろ?それなのにぎゃーぎゃーわめいてよぉ…。これもそうだ、さっきからうるせえよ。
B:あつあつのハンバーグになれた。嬉しいなぁ。ねえ、早く食べてよ。さめちゃうよ。
A:えっと…これって…ハンバーグ、だよね?
男:食えっていう割によぉ、ナイフで刺してやったら喚くんだ。
B:あ"っ…い、いたい…いたいいたいいたいいたい…はやく、はやく食べて…はやく…食べて…。
A:…ごめん。何を、言っているのかわからないよ…。
男:……は?
B:はやくはやくはやくはやく、いたいいたいいたいいたいいたい。
A:体調悪いの…?大丈夫…?
N:テーブルに叩きつけられるナイフとフォーク。一同の視線が男に集まる。
男:…俺の頭がおかしいって言いたいのか?なあ。
A:ち、ちが…。
男:なあ、声、聞こえるよなぁ?うるせえこいつらの声がさぁ…。
B:いたいよ、いたいよ、食べてよなんでどうしてひどいひどいひどい。
A:ま、待って…落ち着いて話そう?
男:…ちっ。
A:えっあっ、待って!
N:会計を女に済まさせ、男は自宅へと足を運ぶ。怯えながらも女はそのあとを追った。
男:座れよ。
A:う、うん…。
B:女の子だ、いらっしゃい、ぼくを食べてくれるかな。甘くて美味しいよ!
男:うるせえなぁ!!静かにしてろよ。
A:ひっ…ご、ごめ…あ…。
N:女は肩を震わせ、思わず発しそうになった声を両手で塞いだ。
男:…お前はえらいなぁ。
A:え…?
B:なでなでしてる、いいなぁ、ぼくもぼくも。ママにあいたいなぁ。
男:黙れつったら、ちゃんと黙ってくれるもんな…。
N:男は優しく女の頬を撫で、口角を上げ微笑む。男の手には、包丁が握られていた。
A:ひっ…ぁ…あ…。
男:こいつらはさぁ。
B:い"っ…いたいいたいいたい、早く食べて早く!!!
男:刺しても。
B:いたいいたいいたいいたい!!
男:刺しても。
B:はやくはやくたべてたべて!!
男:この通りうるせぇんだ…。なぁ、聞こえるだろ?
A:…あ…、き、聞こえるよ、聞こえる。
N:必死に女は頷いてみせる。トマトからずるりと包丁が抜かれ、そして女に向けられた。赤い汁が滴り落ちる。
男:だよなぁ…じゃあ、今、こいつ、なんつってる?
A:え、あ…。
N:沈黙。カチカチと女の奥歯が揺れる音が微かに響く。
男:…そうか、そうなんだな、あーわかっちまったな、そうかそうかそうか、おかしいのは世界じゃねえのか、俺なんだな?なあ、だからそんな目で俺を見てんだろ。なあ?
A:あ"っ…い、痛い痛い、痛いよ…やめて、やめてやめてやめて!
N:向けられた包丁は、女の肩口にゆっくりとねじ込まれていく。
男:あーあーお前もうるせえな、黙れよ、なあ、黙ってくれよ!
A:ひっ…ひっ…うぐっ…ふっ…ふっ…ぐ…ぅ…。
男:……。…へえ。
N:必死に両手で口を塞ぐ女。その様子に、卑しい笑みを浮かべる男。容赦なく包丁は抜かれ、再度切り落とすように肩口に突き立てられる。
A:んんんんんんん"っ!!
男:偉いなぁ、お前は偉いよ。俺が黙れつったからちゃんと静かにしてんだもんなぁ?偉い、偉いよ。
A:ひっ…っぐ…ぅ…。
N:そして、優しく頬を撫でながら女の右腕を切り落とす。同時に、塞がれていた口が開けられ、激しい悲鳴が部屋に響いた。
男:あーあーうるせえ、うるせえ、うるせぇ…。
B:いたいいたいいたいいたい。
A:いたいいたいいたいいたい。
B:なんでこんなことするの。
A:な…んで…。
男:…うるせえ、黙ってろ。
N:男は、女の右腕に耳を寄せる。そして。
男:あはっ。
N:子供のような無邪気な笑みを浮かべ、嬉々として右腕にかぶりついた。それはあまりにも不気味で異様な光景だった。
男:…いいじゃん、いいじゃん、いいじゃんかよぉ。切り離しちまえば静かになんだなぁ、おい!
A:ひっ…ひっ…やめ、やめて…やめて…。
B:いたいいたいいたいいたい。
男:お前さ、俺のこと愛してるって言ってたよな。
A:…はっ…はっ…。
N:女の意識は既に途絶えかけていた。息が上がり、目は虚でどこを見ているかもわからない。
男:俺のために色々してくれたもんな、ありがとうな。
B:ひどいひどいひどい。
男:最後まで黙ってくれてんだな、ありがとうな。お前は最高だよ、最高の-。
間。
N:唯一、聲の聞こえぬ食材があった。
男:なんだ…こうすりゃよかったんだ。はは…大発見じゃね?
B:女の子食べ物じゃないよちがうちがうちがう。
N:暗い台所の隅。部屋に滲む咀嚼音。
男:さすがに殺す前はうるせえけど…他のと違って料理しちまえば静かになるんだな。あー…静かに飯食えるの久しぶりだ…懐かしいな。
N:幸せそうに女を食べる男の姿が、そこにあった。女を一口頬張り、堪能するように咀嚼する。
A:わたしはあなたをー。
完
【Special Thanks】
音声投稿サイトHEARにて、うまのしっぽ団様が投稿してくださいました!
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