題名:ぼくはたまねぎ
作者:オニオン侍
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時間:10分弱
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※配役
たまねぎ(♂):ぼくはたまねぎ。10代。
男性(♂):ヤバイ。30〜40代。
女性(♀):謝りにくる人。30〜40代。
Mは胸中での発言です。
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※流血表現、胸糞悪い内容がございます。
ご注意ください!!
本文
*
たまねぎM「ぼくはたまねぎだ。いつも彼女を泣かせてしまう。だから、今日も部屋の隅でひっそりと過ごすんだ」
男性「あー、くそ、イライラすんな」
たまねぎM「けれど、いつもこの時間に彼はやってきて、ぼくを部屋から連れ出してしまう」
男性「はーい、今日も脱ぎ脱ぎしまちょーねー」
たまねぎM「そういって、にこにこ顔でぼくを裸にするんだ」
男性「んふ、綺麗な真っ白お肌でちゅねえ」
たまねぎM「ひとしきりぼくの体を撫でまわして、必ずこう言うんだ」
男性「いーっぱい、切り刻んであげまちゅねー!」
たまねぎM「そう言って、鋭く砥がれた包丁を取り出す」
男性「ゆーっくり、ゆーっくりいきまちゅよー」
たまねぎ「うっ…ぐ…」
男性「動くんじゃねえ、このグズが!!!」
たまねぎ「ひっ…ごめんなさい…」
たまねぎM「冷たい包丁の刃が、脇腹に当てがわれる。ゆっくり、ゆっくりと赤い線が浮かぶ。ぷくり、ぷくりとぼくの苦しみが液体となって滲み出す」
男性「ゆーっくり、ゆーっくり…」
たまねぎM「冷たい刃が通る、身が切れる、熱くなる、冷たい刃が通る、身が切れる、熱くなる」
たまねぎ「う…ぐ…」
男性「動くんじゃねえっつってんだろ!!擦り下ろされてえのか、ああ?」
たまねぎ「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」
男性「ったくよぉ…」
たまねぎM「体中から、ぼくの苦しみが溢れて、溢れて、止まらなくなる。そうしたら彼女が必ず現れる」
女性「ね、ねえ…それくらいにしたら…?」
男性「あ?んだとてめえ、俺に口出しすんなっつってんだろ、わかんねえのかこのクソアマが!」
女性「ひっ…ご、ごめんなさい…ごめんなさい…」
男性「ちっ…」
たまねぎM「毎日、こんなやりとりをして一度彼はタバコを吸いに行く。ぼくは、裸のまま、待っている」
女性「…ああ…。ごめんね、ごめんね…痛いよね、ごめんね…」
たまねぎM「傷ついたぼくのからだを見て、彼女はいつも涙を流す。ごめんね、ぼくのせいで、あなたはいつも泣いている」
女性「ごめんね…」
たまねぎ「…あの」
男性「おい」
女性「ひっ」
男性「俺が怖いか?あ?」
女性「あ…あ…」
男性「ちっ、さっさと失せろ」
たまねぎ「あ…」
たまねぎM「彼女は、躊躇いながらも走り去ってしまった。また、謝れなかった」
男性「はーい、ごめんねー、寂しかったでちゅねー、今いーっぱい可愛がってあげまちゅからねー」
たまねぎM「今夜の夜も、まだまだ、明けない」
*
たまねぎ「うっ、ぐ…」
男性「ちっ…ふらふらふらふらしやがって…!」
たまねぎ「ごめんなさい…ごめんなさい…」
男性「仕方ねえなぁ?言っても伝わらねえんじゃ、どうしようもねえよなあ?」
たまねぎM「この日は、いつもと違った。彼は包丁を置く」
男性「その邪魔くせえ足、切り落としちまうか!」
たまねぎ「ひっ…」
男性「おら、そこに寝ろ!」
たまねぎM「ぼくは突き飛ばされ、地面に転がる。そして彼は肉切り包丁を高らかと掲げ、ぼくに目掛けて躊躇なく振り落ろした」
たまねぎ「……!あ…れ…」
女性「っぐ、う…あ、ぁ…」
たまねぎ「…え…」
男性「あ?」
たまねぎM「女性の背中に、深々と肉切り包丁が突き刺さる」
たまねぎ「…なん、で」
女性「ごめん、ね…」
たまねぎM「女性が声を発すると同時に、大量の血が口から吐き出される。それをぼくは、全身に浴びた」
男性「邪魔しやがってこのアマぁ!!どけ!この!くそ!」
女性「うっ、ぐ…は、あ…」
たまねぎM「何度も、何度も、何度も振り下ろされる。もう、呼吸すらままならない彼女は、ぼくを見てまた泣いた」
女性「こんな…ことしか、できないお母さんで…ごめん、ね…」
たまねぎ「…あ…」
たまねぎM「泣きながら、彼女はぐったりとぼくにもたれかかって、それきり動かなくなった」
男性「おら!おら!くそ!くそくそくそ!…ふー、くたばったか…めんどくせえなぁ…」
たまねぎM「そう言って、いつも通り彼はタバコを吸いに行った。いつも通りなら、この後彼女が謝りに来るんだ。けれど、今日は」
たまねぎ「…起きて…」
たまねぎ「起きて…起きてよ…」
たまねぎM「ただ静かに、彼女は動かない。そうわかった瞬間、ぼくの苦しみが、堰き止められていた水のように溢れ出して、止まらなくなった。苦しくて、苦しくて、たまらない。だけど、悲しみに溺れてしまうその前に、これだけは伝えないといけないんだ」
たまねぎ「…お母さん…ごめんなさい…」
たまねぎM「ぼくは、お母さんを、ぎゅっと抱きしめて」
たまねぎ「待っててね」
完