お前とはもう
題名:お前とはもう

作者:オニオン侍

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時間:5分弱

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※配役


A(♂):いわゆるレッド

B(♂):いわゆるブルー

N(どちらでも):ナレーション

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本文

N:デパートの屋上にて。ヒーローショーが行われている。赤と青のコンビヒーローが、見事悪役を倒し、子供たちから声援が送られる。

A「おっつかれー!いやぁ、やっぱお前と組んでよかったわ!」

B「おう、お疲れ。…そうか…」

A「なんだよ、元気ねーなぁ。どうした?」

B「…すまん!俺…お前とはもう、組めない」

A「は…え、ちょ、なんでだよ!めちゃくちゃいいコンビじゃんか、俺ら!」

B「お前は悪くない、悪くないんだ…だが、もう…すまん!」

A「待てって!一回落ち着いて話そう、な?」

B「…話したところで、俺は…」

A「俺の気が済まねえだろ!話してみろって」

B「…わかった」

N:彼の表情はかたく、そして寂しそうだった。閉ざされていた口がゆっくりと開かれる。

B「俺…お前が闘ってる姿を見ると興奮するんだ」

N:その目に濁りは一切なく、晴れた日の夏空のように純粋で、澄み渡っていた。

A「………は?」

B「ああ、勘違いしないでくれ。性的な意味じゃないんだ。元はと言えば、俺はお前のファンだった。それはもう憧れて憧れて…」

A「…性的な…」

B「しなやかな筋肉、それから繰り出される技、光る汗…それを誰よりも近くで見られるんだ。ファンである俺はもう大興奮だよ」

A「大興奮…」 

N:彼の話をまとめるとこうだ。たまたま見たヒーローショーで、すっかりファンになってしまった彼は、憧れすぎたあまり、隣で見たいと思うようになったそうだ。そうして願いは叶い、特等席で毎日興奮していると。

B「お前が闘ってる姿は、なんていうかこう…滾るんだよ」

A「滾る」

B「かっこいい、なんて言葉じゃ生優しいんだ。わかるか、お前が何気なく笑いかけてくれるたび、こっちはファンサだ!神対応!と叫びたい気持ちを抑えてるんだ!」

A「ファンサ」

B「爽やかに握手だってしてくれるだろう?!握手会でもないのに!毎日が推しとの握手会だ!」

A「握手会」

N:真剣に語るその瞳は、らんらんと輝いていた。ガタッと突然立ち上がったかと思えば、鞄からあれやこれやとグッズを取り出して並べ始めた。

B「今まで売られたグッズは全部持っている」

A「おお…」

B「ああ、あとファンクラブができただろう。あれは俺が作った。会長兼第一号ってわけだな、はっはっは」

A「ま、まじかよ?!なんで急にとは思ったけど…お前が…そうか…」

N:そうして小一時間ほど、どれだけ憧れているか、どれだけ素晴らしいかを熱弁する。

B「…というわけだ。わかってもらえるなんて、思っちゃいない。だが、これ以上はもう…俺は俺を律せない」

A「んんんん〜…お、お前の俺へのリスペクトと、愛はよーくわかった、伝わった。なんつーか…ありがとう?」

N:無意識に解き放たれたスマイル、ファンとして初めて認識され、加えての神レスポンス。

B「う"っ」

N:推しからの突然の供給過多に、彼は心臓をおさえ膝をついた。

A「大丈夫か?!どうした?!」

B「ま、まて…それ以上近づくな…死ぬぞ…俺がな」

N:ぷるぷると震えながらも、ゆっくりと立ち上がるその姿は、ボロボロになってもまだ闘おうとする戦士そのものだった。

A「お、おい…」

B「ああ…くそ、このポジションはやっぱり誰にも譲りたくない…そう思ってしまった…」

A「ん…?」

N:切なく、儚げな表情を浮かべ、こう告げた。彼なりの、覚悟を持った問いだった。

B「なあ…俺…これからもお前の隣で、興奮していいか…?」